── 多様性、収束、そして個人の記憶
Pitchforkの年間企画「Best Songs of 2025」は、
単なる楽曲ランキングではない。
100曲を通して眺めると、そこにははっきりとした二層構造が存在している。
下位では多様性が広がり、上位では評価が収束する。
これは偶然ではなく、編集された結果だ。
本記事では、
100–50位と49–1位の分析を踏まえたうえで、
Pitchforkが2025年の音楽をどのように配置し、
どのように記憶させようとしているのかを整理する。
そして最後に、その構造の外側にある個人の記憶にも目を向けてみたい。
1. データで見る二層構造
主ジャンル分布の違い
- 100–50位
- Rock / Pop・R&B / Rap / Electronic がほぼ均等
- 支配的ジャンルは存在しない
- 49–1位
- Pop / R&B と Rock で約6割
- 明確なジャンルの重心が生まれる
下位帯は分散、上位帯は収束。
Pitchforkは順位が上がるにつれて、
「共有可能な音楽像」へと評価を集約していく。
BNM収録率の差
- 100–50位:約 15.7%
- 49–1位:約 34.7%
順位が上がるほど、
Best New Music(BNM)に選ばれたアルバム収録曲が増えていく。
これは、PitchforkがBest Songsという企画を通して
アルバム主義を前提とした物語を構築していることを示している。
2. 100–50位が担う役割:探索のゾーン
100–50位は、
- ジャンルが分散し
- 実験的・周縁的な楽曲も多く
- BNM収録率が低い
このゾーンでPitchforkがやっているのは、
「代表曲を並べること」ではない。
まだ文脈化されきっていない音楽、
発見される余地を残した楽曲を、
リスナーに手渡すことだ。
ここは「下位」ではなく、
探索のための地図として機能している。
3. 49–1位が担う役割:記憶のゾーン
49–1位では状況が変わる。
- ジャンルはPop / R&B と Rock に寄り
- BNM収録率が一気に上昇
- アルバムの“顔”となる曲が増える
ここでPitchforkが優先しているのは、
発見よりも記憶だ。
2025年の音楽を、
どんな音として覚えてほしいか。
その答えが、この順位帯に集約されている。
4. Best Songsは「順位」ではなく「編集」
この二層構造を踏まえると、
PitchforkのBest Songsは
ヒット順でも再生数順でもないことがよく分かる。
- 下位帯:多様性を広げる
- 上位帯:評価を収束させる
Pitchforkは、
Best Songsというフォーマットそのものを編集装置として使っている。
5. ランクイン・アルバムから選ぶ、もうひとつのベスト10
── Pitchforkの選択と、個人の記憶が交差する場所
ここでは、Best Songsにランクインしたアルバムを前提に、
個人的により強く残った曲を順位付きで並べてみる。
これは対抗ランキングではなく、
同じ音楽をどう持ち帰ったかの差分の記録だ。
1. Justin Bieber – Daisies
Purpose あたりから好きなジャスティン・ビーバーの待望の新曲。
最初はスカスカで、キャッチーさもなく、覚えにくい印象だった。
だが聴き込むうちに評価は反転し、
いまでは彼の作品の中でも一番好きな楽曲になっている。
2–3. Smerz –You Got Time and I Got Money / Feasty
今年知ったアーティスト。
最初はクールで冷たい印象だったが、
繰り返し聴くうちに Feasty がクセになり、
You Got Time and I Got Money の温かさに触れて
アルバム全体の完成度を思い知った。
前半はクール、後半はウォームで瞑想的。
Big City Life というタイトル通り、
大都市での一日を描いたアルバムだと思う。
4. Barker – Reframing
初聴で完全にぶっ飛ばされた曲。
キックがないのに疾走感があり、
それでいてリラックス感もある。
その“ズレ”の感覚が忘れられない。
5. Ryan Davis & the Roadhouse Band – Monte Carlo
Wilcoのような歌心あふれる楽曲に、
ふいに差し込まれるノイズと実験性。
その違和感が強く記憶に残った。
6. This Is Lorelei / MJ Lenderman –
Dancing in the Club (MJ Lenderman Version)
オリジナルも好きだったが、
このバージョンは単なるアコースティック・カバーではない。
クラブで踊る虚しさと、
家でリラックスしている空気感を同時に内包している。
7. Maria Somerville – Garden
The Jesus and Mary Chain が好きなので、
この手のドリーミーでノイズ感のある音楽はもともと好みだ。
ただ、この曲はよりアンビエントで、
風景として静かに残るところが印象的だった。
8. Anthony Naples – Uforia 2
最初に聴いたときからすっと入ってきた一曲。
何も考えずに聴ける、
質感の良い電子音楽。
9. Haim – Relationships
これまでピンと来ていなかったHaimだが、
今回のアルバムはかなりハマった。
中でもこの曲は、
アルバムを象徴するアンセムだと思う。
10. DJ Koze – Brushcutter
コスミックな電子音楽と、
プリミティブなボイスの融合。
Best Songsでは別曲が選ばれているが、
個人的にはこの曲が一番残った。
6. 番外編:選ばれなかったけれど、2025年を支えた5曲
ここからは、Best Songsのリスト外。
だが、生活や季節、体験として強く残った音楽たちだ。
- Far Caspian – An Outstretched Hand / Rain
- Florist – Levitate
- Jefre Cantu-Ledesma – Summer’s End
- サトミマガエ – Many
- Motion City Soundtrack – She Is Afraid
これらは、
編集された記憶の外側で、
個人の時間に沈殿していった音楽だった。
結論:構造の先に残るのは、個人の耳
PitchforkのBest Songs of 2025は、
構造としても、編集思想としても非常によくできている。
だが最終的に音楽が残る場所は、
いつも個人の時間の中だ。
データを読み、構造を理解し、
そのうえでなお残る曲。
そこにこそ、その年の音楽の本当の記憶がある。

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